ガルドラ龍神伝―闇龍編―
古代文字の複雑な並びに悪戦苦闘しながらも、ヨゼフは少しずつ文字を拾っていく。


「ぐるるる……」


「リタ、今、何か言った?」


ヨゼフが聞いたのに対し、リタは首を横に振る。


彼は引き続き、古代文字の解読に集中する。


「わかったよ、リタ。


これらの文字は、忠告を促してるんだ」


「忠告? それなら、わざわざ文字にしなくても……」


そう言いかけて、リタは一旦言葉を切る。


彼女はふと、おかしい点が二つあるのに気づく。


一つ目は、先程分かれて行動することになった魔族と、すぐに合流していること。


(この神殿には、出入り口が幾つもあったはず。


それなのに、なぜヨゼフとだけすぐに会えたのか?)


リタは思ったよりも早い友との再会を、素直に喜べなかった。


二つ目は、なぜ鳴き声だけが遠くて、爪や頭で物を壊す音が意外と近くで聞こえるのかということ。


あの音はおそらく、背後から聞こえていたものに違いない。


もしそうでなければ、先程の鳴き声が聞こえることも、まずないだろう。


リタはこの二つの矛盾点から、妙な鳴き声の主の正体はヨゼフ――いや、彼に化けた召喚獣ではないかと予想した。


彼女は推測を正すため、実際にヨゼフに訪ねる。


「ヨゼフ、君はヨゼフじゃないね?」


唐突な疑惑を持たれ、ヨゼフはぎょっとした。


「な、何言ってるんだよ。


お、俺はヨゼフだよ。


友達の言ってることが、信じられないのか?」


ヨゼフのような魔族は、いつもとは違う一人称を使っている。


おまけに、言葉の所々に途切れがある。
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