ガルドラ龍神伝―闇龍編―
彼女は勢いをつけ、鋭い爪でバティカルの右腕を強く引っ掻いた。


召喚獣との戦いと同じように、彼女の右腕から爪にかけて、大量の血が滴り落ちている。


「バティカル、どうやらあなたの負けのようね」


横からナンシーが、口を挟むように言った。


勝負に負けたバティカルではあったが、なぜか彼は、高い声で笑っている。


それは、リタが右腕に装備している爪についている、自分の血液の量を見たからだった。


彼女の腕が徐々に赤く染まっているというのに、この魔道師は、平然とした態度で笑っている。


「何がそんなに可笑しい?」


リタはすぐさま疑問に思ったことを、雷系魔道師に訪ねた。


「砂龍王女よ、お前の腕も血に塗れてきたな」


バティカルは、気味の悪い言い方をした。


リタはそれを聞いた途端に、背筋が凍てつくほどぞっとした。


雷系魔道師バティカルは、更に続けて言う。


「確か砂龍族は、≪正義の魔族≫と呼ばれているはず。


だが、今の状況を見て、正義を貫いた行為と言えるか?」


「……」


リタはこれ以上、言い返せなかった。


バティカルの言っていることは、間違いとも言い切れない。


父上が、いつも口癖のように言っていた。


――むやみに魔族を殺してはいけない。


それは、王族のする行為ではないし、正義を重んじる砂龍族の心意気に反する行為だ。――


と……。


このままでは、私はいつか魔族を殺してしまう。


リタは、動揺を隠せなかった。


彼女が大量の冷や汗をかいているのを見て、ペレデイスが声をかける。


「そんな奴の言うことなんか、信じちゃ駄目だ!


リタは、決して悪い魔族じゃない!」


ペレデイスは、リタを庇うように言い放つ。
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