ガルドラ龍神伝―闇龍編―
ナンシーも、彼と同じような眼差しで見守る。


彼女の場合、あまりの不安に、胸が張り裂けそうになっていた。


そんななか、ヒアが兵士達相手に名乗る。


「俺は、葉龍戦士ヒアです」


名乗る時の彼の声は、緊張していたために少し上擦っていた。


他の龍戦士達も次々と名乗り、残るはスーザンただ一人になった。


スーザンは緊張のあまり、声を出すのもやっとだ。


彼女は兵士に名乗る前に、深呼吸をした。


「わ、私は、金龍戦士スーザンです」


少し噛んでしまったものの、スーザンはなんとか怪しまれずに自己紹介を終えた。


全員が名乗り終えた時、外れで見守っていたヨゼフとナンシーは安堵の胸を撫で下ろした。


「今回は特別に通してやろう」


男性の門番は、半ばヨゼフ達を見下すように言った。


扉が開き、彼らは寝室に入る。


そこには、涙目になっているリタと、未だに意識が戻らない砂龍王の姿があった。


(なんて皮肉なんだ。


友人である姫の父君との再会の日が、まさかこんな形で訪れるなんて。


僕達にできることはないのか?


ランディー陛下を、なんとしてでも救って差上げたい。


リタには、陛下が必要だ。


また、砂龍族の人々にも……)


強い毒に侵され、意識がないままベッドに横になっているランディー王の姿を見て、ヨゼフの目にも涙がこみ上げてくる。


その時、彼は良い案を思いついた。


ヨゼフは近衛兵のセルセインに、その案に関する情報を聞き出す。


「セルセイン様、僕に提案が……。


確かこの砂漠には、解毒剤の材料となる≪薬仙人掌≫という物がありますよね?」


ヨゼフは言葉を一つ一つ慎重に選びながら、セルセインに粗相がないように話す。


セルセインが頷いたのを見て、彼は続けて言う。


「そこで、殿下やナンシーと一緒に、その≪薬仙人掌≫を採りに行こうと思います」


ヨゼフが≪薬仙人掌≫という仙人掌を探そうという話を切り出した時、王とリタの主治医を始め、部屋にいる魔族全員が目を丸くした。


それに対し、氷龍戦士アイルが反対の意見を出す。


「この砂漠は、灼熱地獄です。


ヨゼフさんは愚か、ほとんどの龍族の民ですら耐えるのが困難です。


そんな中で、三人だけで≪薬仙人掌≫の所に行くのは、無茶ですよ」
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