ガルドラ龍神伝―闇龍編―
2


≪アウン・ファレル≫――


それは魔界ガルドラの遥か上空にあり、ログテル砂漠の南端の遺跡を入り口とする、闇の空間と呼ばれる場所。


だがそこは闇の空間、というよりは闇の要塞と呼ぶのが正確である。


千五百年前に、かつての砂龍戦士デュラックの父親であった初代砂龍王ラドダンとその関係者達によって闇龍は肉体を失い、レザンドニウム領国にあった黒い石に封じられた魂と離ればなれになっていた。


これで魔界ガルドラ各地の平和が保たれると、先祖達は考えた。


だが今、魂だけが石から抜け出してしまい、この要塞にある肉体と合流する機会を窺いながら、魔道領主の生命力を吸い取っていた。


その目的は、かつて自分を封印した三人の戦士達を相手に、復讐をすること。


そうすることで、今度こそこの魔界を支配しようと、闇龍は暗躍していたのだ。


先祖達が倒せなかったほどの凶悪な敵を相手に、リタ達は三柱の龍神達から受け継いだ武器で、光を注ぐために戦っている。


全ては魔界を、そして現在まで生きている全ての魔族達を守るために。


『愚かな龍戦士達よ。


魔道領主の命を吸い取り、更なる力を身につけたこの俺に、敵うとでも思っているのか?』


「それはやってみなきゃ、わからないさ」


リタも闇龍の魂も、はなから勝ち誇ったように言った。


戦いが始まって早々、ナンシーは斧をブーメランのように投げつけ、魂を攻撃する。


斧の一突きを正面から食らい、魂は二つに分かれたオーラになった。


『やるな、火龍族の少女よ。


だが、次はそうはいかないぞ』


そう言って魂は、ヨゼフやナンシーにそっくりな姿へと変身した。


闇龍の魂は九年間に渡り、魔道領主の命を吸い取っていた。


確か、キアは変幻自在な魔族だと、水系魔道師達の何人かが噂していたことがある。


九年間同じ体に取り憑き、領主からその能力を得たに違いない。


リタは過去に聞いた話を思い出しながら、そう推測していた。


彼女には本物と偽物の区別が、はっきりとついている。


本物のヨゼフなら、いつも赤紫色の長い鬣を細く一本に結っている。


それに対して、偽物のヨゼフの方は、同じ赤紫色でも鬣の上側がはねていないし、また、やや短い。
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