ガルドラ龍神伝―闇龍編―
「私に聞かれても。どこかに、秘密の扉を開けるためのスイッチでもないかな?」


「馬鹿なことを言わずに、二メートルだけ引き返そうよ」


ヨゼフに言われた通りに、リタ達は引き返そうとした。


と、その時――


一番後ろにいるヨゼフが右側の壁に触れた途端、ガシャンと何かがはまるような音がした。


リタとナンシーが音に反応して、後ろを向く。


「ヨゼフ……」


「今、何かに触った?」


二人がヨゼフの顔を見て、聞いた。


彼は慌てて、首を横に振る。


「『僕は何もしてないよ』って言いたげな顔ね。正直に言いなさいよ、ヨゼフ」


「まあまあ。落ち着きなよ、ナンシー」


リタは、ヨゼフに怒っているナンシーを制止した。


彼女は続けて言う。


「彼が何も言わないのは、確かに良くない。だけどナンシー、君も彼に冷たく当たりすぎだ。見てごらんよ。彼もこんなに……」


リタは途中で、言葉を飲み込んだ。


三人が仕切りだと思っていた石の壁が、音を立てて開いたからだ。


三人は不思議そうに、開いた扉を見る。


「お、おそらく僕が、右側の壁にあるスイッチを押したからじゃないかな?」


ヨゼフは推測した。


ナンシーは、急に瞳を輝かせる。


それは扉が開いたことで、砂龍神の居場所への近道ができたかもしれない、と思っているからだ。


「おーい、ナンシー。聞こえるか?」


リタは、ナンシーの顔に手を翳す。


「ごめん。もしかしたらこれが、砂龍神像の発見に繋がるんじゃないかしら、と思って」


ナンシーが謝った後、ヨゼフは人差し指を彼女の顔に近づけた。


彼の動作はまるで、“もう一言、謝ってほしいことがある”と言いたげな態度を示しているようだ。


「わかったわよ。ヨゼフ、さっきは冷たく当たってごめん」


素直な謝り方ではないけれど、彼は許してあげた。


ナンシーの場合、他人に対して素直に謝る、ということをあまりしない。


このことは、奴隷になって半年経った頃から解っていたことだからだ。
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