ガルドラ龍神伝―闇龍編―
リタは近衛兵の言葉を聞き、≪近衛兵を始め、他にヨゼフやナンシーなら、気軽に相談できるかもしれない≫と思った。


彼女は早速、セルセインに最大の悩み事を話す。


「そうですか……。でもそれは、殿下だけではないと思います。おそらくヨゼフ殿やナンシー殿も同じように感じているはずです。魔道族のような姿には、嫌気が差しているかと。ですが、幸いにも殿下の場合は陛下やジオ様のご理解を通じて普通に話せたではありませんか」


そこまで言うと、彼女は微笑む。


その表情からは、≪大丈夫です。理解のある魔族は、必ずいますよ≫と言いたげな雰囲気が漂っている。


「ありがとう、話を聴いてくれて」


リタは作り笑いを浮かべて言った。


セルセインは首を横に振り、言葉を返す。


「いえいえ。相談には、いつでも乗りますよ」


「ありがとう。でも、私にはヨゼフやナンシーがいる。冒険中は、彼らを頼るよ」


「殿下……。冒険はよろしいですが、あまり無理はなさらないで下さいね」


「ああ、大丈夫さ」


リタはヨゼフ達の様子を想像しながら、鏡の前で髪を整える。


「では、私は会場にいますからね」


「ああ。父上達も、痺れを切らしてるだろうからね」


リタは、王女らしくティアラを飾りながら言った。


彼女は服装や身だしなみを整え、父王達が待っている場所に向かう。



その頃、ヨゼフは城の外で、深刻そうな表情になっていた。


(リタ、僕はあんたが羨ましい。僕達と違って、あんたには父親を始め、兵士や召使い達がいる。城の砂龍全員、あんたが奴隷として連れて行かれる前と変わっていない、と言っても良いくらいだ。それに比べ、僕には両親もいない。弟も、キアの部下に殺された。が、あんたは誰一人殺されていない。本当に羨ましい)


リタの母親である王妃は、彼女が生まれて間もない頃に亡くなった。


ヨゼフはその事実を知らずに、リタの家庭を羨ましがっている。


彼が沈んでいると、ナンシーが来た。


「どうしたの、ヨゼフ。暗い顔をしないで、砂龍族の子供達と遊ぼうよ」


「ナンシー、あんたの家族はまだ生きてるの? それとも……」


ヨゼフはナンシーに訪ねた。


その内容は、あまりにも無神経なものだった。


言い換えれば、今の彼の発言は他人のプライバシーを侵害するものである。


到底、他人の家庭を羨ましがっているとは言えない。
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