ガルドラ龍神伝―闇龍編―
二つとも、正午を指している。


(二人を無理矢理起こすのは、可哀想だ。少しの間、起こさないようにしよう)


彼女は先程見た夢を思い出し、溜め息をつく。


(即位式か……。まだそんなの、当分先の話じゃないか。私が二十歳になってもぴったりその年に、父上が砂龍王を引退するとは限らないし。なんで、こんな夢を見たんだろう)


不思議な夢の内容のことで、彼女の頭の中はいっぱいになった。


「そんなに溜め息ばかりついてると、幸せが逃げるわよ、リタ」


「びっくりした! 既に起きてるのなら、一声かけてくれよ」


リタは“一声”という所を強調して、男っぽく言った。


ナンシーは苦笑する。


「ごめん。あまりにもリタの溜め息が大きかったから、目が覚めちゃった。ただそれだけ」


ナンシーは珍しく、素直な謝り方をした。


彼女に続いて、ヨゼフも目を覚ます。


特に彼は、罰が悪そうな起き方だ。


「やあ、ヨゼフ。丁度昼食の時間だよ。もりもり食べて、水龍神アークレイの神殿への冒険に備えよう」


「そうだね。ふぁぁぁ……。まだ眠い。もう一眠りしても良い?」


「駄目だよ。もうすぐ、アヌテラに着くよ」


ナンシーは注意した。


ヨゼフは背筋を伸ばす。


二十分後、船は水の都アヌテラに到着した。


ヨゼフを先頭にして、三人は船を降りる。


辺りの水が絶え間なく、都中を流れている。


その水は、澄んだ青緑色をしている。


ヨゼフは、九年前に魔道族に殺害された家族のことを思い出す。


彼の実家は、先程三人が船を降りた所から、北西に二十キロ離れた所にある。


その途中にもまた水路があるので、ゴンドラなしでは到底渡れない。


彼は二人を、ゴンドラ乗り場に案内する。


「あのゴンドラで、まっすぐ四十メートル行った先に、僕の家があるよ。そこで、昼食にしよう」


「わかった。料金の負担は、私がするよ」


「悪いね、リタ。僕は今、一文なしだから」
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