ガルドラ龍神伝―闇龍編―
リタとナンシーが遠ざかった後、ヨゼフは早速、準備をした。


それは、彼の両親や弟・カルツフォイの遺骨を埋めるための準備である。


着替えを済ませ、彼は三人分の遺骨が入っている、白く大きな入れ物を持って外に出る。


(カルツフォイ。


僕だよ、ヨゼフ兄ちゃんだよ。


≪北端の領国≫を脱出して、九年ぶりにアヌテラに帰って来たんだ。


ラノア族長や幼馴染みにも会ったよ。


二人とも、元気そうだった。


今回、僕がここに帰ったのは、お前や両親が無事≪天界ソダクトル≫に行けるように、お手伝いをするためさ。


僅か三年間だったけど、兄として、お前と暮らした日々は楽しかったよ)


ヨゼフは、心の中で亡き弟に語りかけた。


彼ら魔族は、亡くなってもすぐに≪天界ソダクトル≫に行かず、一度≪冥界フェルシス≫という場所に行き、ある程度日にちが経ってから天界に向かうのだ。


ヨゼフは、そのことを思いながら涙を浮かべる。


そうしているうちに彼は、アヌテラの北東にある墓地に着く。


(この墓地の一番左側に、家族の墓があるはずだ)


ヨゼフは、墓地を隅々まで歩いた。


その時彼は一番左側で、一人の男性が手を振っているのを見つけた。


その男性は、アヌテラ教会の神父だった。


彼はラノア族長から、“ヨゼフが自分の家族の供養をする”という連絡を受け、手伝いに来たのだった。


(族長……。僕のために、こんなことまで……。明日、屋敷に着いたら、ちゃんとお礼を言っておこう)


そう思いながらヨゼフは、家族の遺骨を神父に渡す。


彼らは、≪冒険家一家の墓≫と書かれた墓石の前で、手を合わせて祈る。


その祈りは両親や弟の冥福はもちろん、ヨゼフ自身が無事に冒険を終え、またアヌテラに帰れるように、という願い事も兼ねている。


遺骨を埋め、ヨゼフは神父に手を振る。


「今日はありがとうございました、神父様。今度は家族の命日に会いましょう」


「言われなくても、そのつもりだよ。ヨゼフ君の冒険が無事であることを、神父として水龍神に祈ってるよ」
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