不良狼の一途な溺愛
「れ、蓮君…。」
小さな声で、ぎこちなく呟く。
初対面の時から、“紫堂君”と言っていただけに、急に呼び方を変えるのは何だか不自然な感じがしてしまった。
何はともあれ、これで条件は達成したよね…。
そう思ったけれど…
「聞こえねぇ。」
蓮君からは、耳を疑うような、まさかの返答が飛んできた。
そんなの嘘に決まってるっ!!
だって、いくら小さな声で呼んだとは言っても、抱き締めてられてるぐらいの近距離だよ?
周りが賑やかなら納得出来るけど、ここは凄く静かな空間。
どう考えたって、蓮君の耳にも届いているはずだもん…。
「絶対、聞こえたでしょ?」
「全然、聞こえかった。もう少し大きな声で言え。」
「ほ、本当に聞こえなかった?」
「しつこいな。聞こえねぇものは聞こえねぇんだよ。」
少しイラついたような声になってきた蓮君に、これ以上は深く追及しない方がいいなと悟った。
こ、今度はちゃんと聞いてよねっ…!
ジーッと蓮君を見ながら、そんな想いを込めた念を送った。