碧いボール
俺は親父さんに向き直って言った。
何を話したいのかはだいたいわかる。
同じような環境にいる人の気持ちとかって、すぐわかるもんなんだよな。
「相川のことでしょうか」
親父さんは驚くこともなく、そうです、と言った。
期待通りの話をされて、驚きはしなかったけど、でも・・・ショックだった。
親父さんは俺の目をまっすぐ見つめて話し始めた。

自分はバスケが大好きだということ。
若いときは相当の実力者だったこと。
奥さんが亡くなったこと。
それがきっかけで娘と放れてしまったこと。
会社ではあまりうまくいってないこと。
元々良くなかった食生活が、さらに悪くなったこと。
随分前に、体に違和感を感じて、病院に行ったこと。
医師に糖尿病と診断されたこと。
発見が早かったので、なんとか最悪の結果になるのを食い止められたこと。
まだまだあった。
この人は、男手ひとつで相川を育てて・・・いや、養って、そして娘に、大切なことを伝えられずにいる。
俺は自分が恥ずかしくなった。
何が悩みだ、何がいじめだ。
生徒にいじめられた、ただそれだけで毎日泣いていた自分が情けなくなった。
全て話して親父さんは、満面の笑みで言った。
「わたしのことは全て話しましたよ。コーチも悩みは似ているはずです。私でよければ相談にのりますよ」
この言葉を聞いて、俺はあふれる涙を止めることができなかった。
俺は弱い。親父さんに、何一つ勝てることなんてないんだ。
父親って、強いんだな。
< 32 / 55 >

この作品をシェア

pagetop