碧いボール
焦っていると、インターホンが鳴った。
こんなときに誰?今出られないんですけど。
すると、訪問者は、あたしの許可なく家に上がってきた。
ズシズシと音がする。
怖かった。でも、今はそんなことより、目の前の問題のほうがよっぽど怖かった。
どうしよう。お母さんと同じように、お父さんまでも亡くしてしまったら、あたしはどうすればいいんだろう?
訪問者がリビングのドアを開けた。
「白亜・・・?」
「白亜だよ、って、有希、おじさんどうしたの!」
「あたしにもわかんないの!ねえ白亜、どうすればいいの?」
「何やってんだよ、まずは救急車を呼んで。当たり前じゃないか!そんなこともしてなかったのか?」
救急車。忘れてた。
あたしはほんとに本番に弱い人なんだな、って、そんなレベルじゃない。
それに、白亜にこんな勢いでけなされたのは初めてだった。白亜もお父さんのことを心配してくれてる。
そう思うと、少しだけ心強くなった。
すぐにあのかん高い音が近づいてきた。
その音は家の前でピタっと止まり、今起こっていることが夢じゃなく、現実なんだってことを思い知らされた。
あたしと白亜は救急車に同乗した。
車内でいろいろ聞かれたけど、あたしは何もわからない。
だって、お父さんを一人家に残して自分はのうのうと出かけていたんだから。
「君、何かわかることはないの?」
「ごめんなさい、何もわからないです。帰ってきたら、こんな風になっていたんです」
あたしの回答にあきれたのか、隊員は白亜に視線を移した。
だめですよ。と思った。白亜はたまたま来てくれただけであって、あたしよりも何も知らない。
そう思った。でも、白亜はあたしなんかよりも情報を持っていた。
「10時くらいに、相川さんの家を訪ねたんです。あ、おかずの差し入れで」
10時と言えば、あたしはもう会場にいるころだ。
白亜が続けた。
「そのときに、おじさんの車があったから、いるんだなと思って、インターホンを鳴らしたんです」
白亜の顔が青ざめていく。隊員が白亜をなだめるように続きをうながした。
「それで、返事がなくて・・・いないんだなって思って、引き返したんです」
やっと白亜の言いたいことがわかった。
白亜は自分に負い目を感じているんだ。何も悪くないのに。
「では、その時にはもう倒れていただろうと思われるわけですね?」
「はい」
あたしはチラッと時計を見た。
2時。あたしの顔から色が薄れていくのがわかった。
お父さん、ごめんね、ごめんね・・・。
あたしがいない間に、お父さんは最低でも4時間は一人で病気と奮闘していたんだ。
ごめんね、ごめんね・・・。
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