碧いボール
「お父さんは、何か持病とかあるのかな?」
「はい・・・糖尿病を・・・患っています・・・」
「糖尿病!それで倒れて4時間か・・・キツイな」
「あの、キツイってどういう意味ですか?」
「身内は君一人だけかな?あのね、糖尿病患者が倒れるってことは、まあ大変なことなんだよ。詳しくはわからないけど、覚悟しておいたほうがいいよ」

目を覚ますと、あたしは見慣れない天井を見ていた。
周りには誰もいなくて、初めは夢の中かと思った。
コンコン。
ノックの音がして、はーいと訪問者を迎え入れる。
部屋に入ってきたのは看護婦さんだった。
「調子はどうですか?」
「調子?あたしどうかしたんですか?」
「あら、知らないのね。あなたは救急車の中で倒れたのよ。過度のストレスが原因かな。何か思い当たることはある?・・・って、ありありよね。ごめんなさい」
「いえ・・・」
「まあ、ゆっくり休んで。今彼氏を連れてくるわね」
彼氏?あたしは今彼氏はいない。
部活ばっかりで、俺を見てくれてないとか言って、最近別れたばかりだから。
「入るよー」
ああ・・・。彼氏は白亜のことか。
「大丈夫?」
「あたしは全然大丈夫だよ。それよりお父さんは?お父さんはどうしたの!?」
お父さん、と口にしたとたん、白亜が黙ってしまった。
嫌な予感がする。朝よりもずっと、ずっと嫌な予感。
結局白亜は何も話さなくて、ジュースを買ってくると言って病室を出てしまった。
外から複数の人の話し声と、白亜のすすり泣く声が聞こえた。

だめだったんだな、と、直感でそう感じた。
考えたくもない。誰よりも大切な人を幼くして失って、今またわかりあえたばかりの家族を失うなんて。
過酷すぎる現実。
お父さん・・・。
不思議と涙は出てこなかった。
何も考えられなくて、悲しいとかいう感情さえも湧き上がってはこなかった。
ドアをノックする音が聞こえて、はいと短く返事をする。
ずらずらと医師や看護師の行列が部屋に入ってきて、最後に白亜がドアを閉めた。
「誠に申し訳ありません。最善は尽くしたのですが、重度でして・・・。原因は、肺炎でした。持病のために、手術もできなくて・・・」
「もう、いいです。ありがとうございました」
こう言えば、医師達は部屋を出て行くと思ってた。今は一人になりたかったから。
全く、病院もテレビとは違うな。
言い訳ばっかりして、頑張ってくれたなら、それでいいのに。
すると担当医は、もごもごしながら話し出した。
「・・・実は、その、まだ亡くなったわけではないんです」
「「え」」
あたしと白亜の声が重なった。白亜も知らなかったみたいだ。
「どういうことですか?」
それならどうしてあんな話し方したのよ。
「もう、あまり長くはないと思われますが」
人の気分を、上げたり下げたり忙しい医者だな。
担当医が続ける。
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