碧いボール
3ピリ、4ピリと進んでいき、今は4ピリの残り22秒。ただいま同点。
漫画のような事態に驚く。芦田がタイムアウトをとって、あたしたちに作戦を伝えた。
「ありきたりだが・・・杏、レイアップまで運べ。そこでどうにかファールをとられるんだ。必ず決めて、そのあとは時間稼ぎしろ・・・できるか?」
それこそ漫画みたいだけど、今はやれることをやるしかない。
やれることはそれしかない。
タイムアウトを終えて、再びコートに戻ったあたしたちは、作戦を実行した。
あたしが相手のパスをカットして、杏に繋いだ。この時点で、残り時間は7秒。
漫画のようなフィニッシュには、ちょうど良い時間だった。
杏が作戦通りにレイアップまで運ぶ。予想通り、相手はファールをもらう。
杏が放ったシュートは、ゴールに吸い込まれていった。
「ワンショット!」
残り5秒の時間でいただいたフリースロー。
勝てる!そう確信した。
杏のシュートは大きく軌道を描き、ゴールに導かれるようにして決まった。
残り5秒。
相手は大きくパスをして、一か八かのスリーポイントをねらった。
残り1秒。
入るか、入らないか。
あたしたちも、相手も、ただ祈るだけ。
誰一人声を出さない空間で、ガン、と音がして、続いて、ドン、ドントントンと小さくなる、ボールの弾む音。
ビーっと笛が鳴って、清祥側の客席から歓声が上がった。

・・・・・・勝った。

信じられなかった。
何もいえなかった。
だけど、その時間もつかの間、あたしはすぐに状況を理解した。
優勝しただけでは廃部は免れられない、碧いボールを探さなきゃ。
優勝インタビューだとか、そんなのは耳に入らなくて、終わってから部屋に戻ると、ジャージだけを着てみんなと顔を見合わせた。
みんな、何も言わなくてもわかっていた。
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