ケイヤク結婚
「冬馬さんが、理沙にどういう内容の相談をしたかはわからない。が、俺に愛を求めないのであれば、結婚をして欲しい」

「それは出世のための結婚ということですか?」

「そうだ。俺が求めるのは出世。他に何もいらない。冬馬さんは、どうして結婚をしたいと思っているのですか?」

「私は……」

 マグカップをテーブルにコトンと置く。

 うっすらと底が見えてきた。もう残りは少ないみたい。

「最後の一人になりたくないんです」

「最後の一人?」と大輝さんが繰り返す。

「そうです。高校のときの友人や大学のときの友人たちが、次々と結婚していき、幸せな家庭を築いていっています。中にはすでに幸せじゃない夫婦もいるかもしれないけど。でも毎年のように送られてくる誰かからの結婚式の招待状が届くたび、怖くなるんです。私はこのまま結婚できず、独身者最後の一人になるんじゃないかって。そんなのは絶対に嫌なんです。最後まで残るなんて……、いや、もう最後のグループの枠組みに入ってるかと思いますが」

 大輝さんが内ポケットから、いかにも高そうなボールペンを手に取ると、サラサラと婚姻届に名前を書き始めた。

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