ケイヤク結婚
―大輝side―
「どうやら、次回の異動は新垣君に軍配があがりそうよ」

 取引先から戻る道中、ゆかりが口を開いた。

 さすが秘書課というべきか。情報が流れるのが、早い。

「そうか。ま、もともと俺は、異動に関して新垣に勝てるとは思ってなかったから」

 パーティで、あんなことがあったけど。桜木さんと新垣は、結婚に向けて順調に進んでいるってことか。

「結婚している夏木課長を差し置いて、独身の新垣君が異動なんて、ね。会社史上、異例の事態ね」

「近々、籍を入れる予定があるんだろ」

「無いわよ。新垣君、婚約破棄になったから」

「は?」

 俺は隣を歩いているゆかりの顔を見た。

 ゆかりが手首についているきらきらしたブレスレットを外して、鞄の中にしまっていた。

「桜木専務がね。娘の一方的な我儘で破棄になった縁談だから、申し訳ないって。せめて出世の援助くらいはさせて欲しいっていう……一方的な理由により、異動は新垣に決定」

 桜木さんのほうから、婚約破棄に?

 信じられない。あの子は、新垣を好きなはずなのに。

 俺に、自分を出世に利用していいから、新垣と綾乃さんを一緒にさせて欲しいとまで、言ってきた子なんだぞ。

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