ケイヤク結婚
 それをどうして。女って生き物はわからないな。

「んで、夏木課長も地方支社へ異動の話があがってるの。業績が落ち込んでる支社で、夏木課長に期待を寄せているそうよ」

 ゆかりがにこっと笑って、肩を叩いた。

「もちろん、奥さんはついて行くわよね?」

「もし異動になるなら、単身赴任するつもりだけど」

「新婚で、子どもがいないのに単身赴任? 普通、奥さんもついていくものでしょ?」

「彼女は仕事をしているから」

「そんなの辞めればいいじゃない! 大輝の出世がかかってるのよ? 奥さんが仕事をとるって言うなら、私が大輝についていこうか?」

 ゆかりが、ぎゅっと俺の腕に抱きついてきた。

「私、大輝のためなら仕事なんて辞めちゃうけど」

 にこっとゆかりが笑うと、ゴホンというわざとらしい咳が前方から聞こえた。

 顔をあげれば、仁王立ちの理沙が立っている。

 物凄い形相の理沙の隣には、気まずい表情の綾乃さんが立っていた。

 綾乃さんは、見ちゃいけないものを見てしまった……と言わんばかりの顔をしている。

 誤解されてしまっただろうか?

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