ケイヤク結婚
―綾乃side―
 そろそろ寝ようかと、ベッドに足を入れると、理沙ちゃんから電話がかかってきた。

「どうしたの?」

 部屋の電気を消しながら、私は携帯を耳につける。

『遅くにごめんねえ。解熱剤、持ってる?』

「市販薬でいいなら、持ってるよ。生理痛のときに飲むし。明日、必要?」

『お兄ちゃんの家にいる居候から、連絡があってね。どうやら、お兄ちゃんが風邪ひいたみたいで。ちょうど我が家の薬は、きらしてて……』

 大輝さんが、熱?

 私は理沙ちゃんが日中、言っていた言葉を思い出した。

 風邪ひいちゃえ…みたいなことを言ってたけど、大輝さん、本当に風邪をひいちゃったの?

「私のでよければ、使っていいよ」

『そう? じゃあ、住所を言うから届けてもらってもいいかな? 居候の話によれば玄関で打っ倒れてるらしいから』

 え? そんなに酷いの?

 私はベッドから出ると、クローゼットの扉を開けた。

 早く届けてあげたい。きっと辛いよね。

 玄関で倒れてるなんて。布団でゆっくり休ませてあげたいよ。

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