ケイヤク結婚
―大輝side―
 少し横になれば、身体が楽になるかと思ったけど。たいして良くならないな。

 むしろ寒気が酷くて、悪化している気がする。

 こうなったら這いつくばってでも、自分の部屋まで行くしかないな。

 俺が身体を起こすと、「待って」という声がした気がした。

「大輝さん、待ってください。今、お薬を」

 くすり?

 女の声?

 俺は声がしたほうに顔を向けると、綾乃さんがコップと薬を手に持って立っていた。

「俺……電話したっけ?」

 朦朧とした意識の中で、俺は綾乃さんに電話をしたのだろうか?

 確か、理沙に電話しようと思ってやめたのは覚えている。

 その後、綾乃さんに俺は電話したのだろうか?

「いえ。私は理沙ちゃんから連絡をいただいて……」

「理沙? 俺、理沙にも連絡してないけど」

「居候の方が、理沙ちゃんに連絡したみたいですよ」

「渉か。夜間診療に行けって俺を玄関に放置したくせに」

 俺は綾乃さんから薬を受け取ると、水を一気飲みした。
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