ケイヤク結婚
「ゆかりもな」

　ゆかりが近くにある回転椅子を引き寄せると、「まあね」と言って腰をおろした。

　短いスカートの裾も気にせずに、足を組んだ。

「休日出勤なんて有り得ないって思ったけど、大輝に会えたなら良かったのかも」

　ゆかりが「えへ」と可愛いく声を出して笑った。

　他の男が見れば、可愛いと思える笑顔も俺には何の効果もない。

　俺は視線を書類に戻すと、デスクの一段目の抽斗にしまってある印鑑を取り出した。

『夏木』と名前の彫られてある印鑑に朱肉をつけると、書類の隅に押した。

「ねえ今夜、久しぶりに食事しない？　明日も休日なんだし。ねっ。朝まで一緒に……」

　ゆかりの指先がデスクに触れると、トントントンとリズミカルな音をたてた。

　期待に満ちた目が、俺の視界に入る。

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