ケイヤク結婚
「明日……いや、今日だな。仕事を休もうと思って。明日の分もやってきた」

「珍しいな。お前が出勤せずに、仕事を休むなんて。風邪でもひいたのか?」

 竹内が俺の額に手を伸ばしてきた。

「熱はない。風邪もひいてない。プライベートでもやるべきことが増えただけだ」

 俺は竹内の手をよけると、靴をぬいで家にあがる。

「プライベートでも? おお! ついに彼女でもできたか?」

「妻ができた」

「はあ?」

 驚きで茫然と立ちつくす竹内の隣を通り過ぎると、俺は自室へと足を向ける。

「ちょ…ちょっと待て。なんだそりゃ! お前、付き合ってるヤツいたのか?」

 バタバタと煩いくらいに足音を立てながら、竹内が駆け寄ってくる。

 俺の背後をぴったりと固めると、鼻息が俺の首筋にかかった。

 気持ち悪い。

 俺が、他人と密着した関係が嫌いだって知っててやっているから、性質が悪い。
< 19 / 115 >

この作品をシェア

pagetop