ケイヤク結婚
「理沙ちゃん、それは大丈夫な理由にはならないよ」

 理沙ちゃんが良くても……ねえ。

 私はコーヒーカフェのカウンターでうなだれた。

「やっぱ、良くない気がする」

 帰ろう! そう決意して顔をあげると、黒のスーツを着た長身の男性がスッと入ってきた。

「理沙、仕事中に呼び出すなと何度言ったら……」

 高級そうなスーツに身を包み、黒ぶちの眼鏡をした男性が、理沙ちゃんに声をかけてきた。

「これ。はい」

 理沙ちゃんがカウンターのテーブルに、婚姻届をバンっと置いた。

「え? ちょ……」

 理沙ちゃんの行動に私は驚いて、手に持っていたカフェラテをこぼしてしまう。

 びちゃっと婚姻届に、染みをつくった。

「あ、ごめんなさい」と私は、慌てて鞄の中からタオルを出すと拭いた。
< 4 / 115 >

この作品をシェア

pagetop