ケイヤク結婚
「あ、いいの。大丈夫。書き間違っても良いようにあと9枚ほどあるから」

「ええ?」

 9枚も? いやいや、そうじゃなくて。

 どうしてそんなに婚姻届を持っているの?

「綾乃さんも、書いて。ほら、ここ」

 理沙ちゃんが、ボールペンを私の手に持たせると、コンコンと私の名前を書くところを指で叩いた。

「ちょ、ちょっと……あの」

 私はちらっと男性を見やる。男性は、無表情で理沙ちゃんを見ていた。

「彼女は?」

 男性が、私を見てから口を開く。

「冬馬 綾乃さん。私がバイトしている美容院で、ネイリストをしているの」

 理沙ちゃんが私の肩をポンと叩いた。

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