ケイヤク結婚
「いつ、あいつと知りあって。いつから付き合い始めたかは知らないが……。あいつは、俺より酷い。確かに、若気の至りで俺は綾乃を悲しませたし、苦しませた。だけど俺には綾乃への愛があった。綾乃を愛してた」

「私への愛なんて無かった。愛されてる実感なんて無かったわ。侑に愛されたくて、抱かれたくて……無駄な努力をしていた私が、今思えば……馬鹿な女だって思える」

 侑にとって都合の良い女でしかなかったって気付けなかったんだから。

「綾乃!」

 歩き出そうとする私の腕を、侑がぐいっと力強く掴んできた。

「好きだ。愛してる。今も、俺には綾乃だけだ」

 私は侑の腕から離れようともがいた。

「嘘つきは変わってないのね。お見合いしておいて、私に『好き』とか『愛してる』とか言わないで」

 無理矢理キスをしてこようとする侑から、顔をそむけた。

 昔は、侑からのキスをずっと期待して待ってた。

 甘いフェイスから、甘い言葉が出てくるたびにドキドキして、一喜一憂していた。

 今は違う。力で、ねじ伏せようと言わんばかりに降り注がれるキスに、ひどく嫌悪を抱く。
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