ケイヤク結婚
「やめて、侑」

 私は左右に頭を振って、侑のキスを何度もよけた。

 歩道を歩く人々の視線が、こちらに向いているのがわかる。

 恥ずかしいっ。

 侑は昔から、人に注目されるのが好きだったかもしれないけど、私は違うの。

 クスクスと笑う声が耳に入ってくると、恥ずかしさから顔に熱をもつのを感じた。

「やめて。離して、侑」

 侑の唇が私の口に重なる。

 しまった…と、私は慌てて侑の胸を押すが、離してはくれない。

 1分近い濃厚なキスをして、やっと侑が離れてくれた。

「俺は諦めない。綾乃から離れる気はないからな」

 侑がはっきりと断言すると、早歩きで人ごみの中へと消えて行った。

 やめてよ、そういうの。

 私は顔を両手で覆った。

 どうして、私を振りまわすの?

 もう侑とは、やり直す気はないの。

 あの頃のみたいに、他の女のところばかりに行く侑を待つなんて、無理なんだから。
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