ケイヤク結婚

「まだ名前は変えてなかったわ。結婚指輪もしてなかった。ネイリストの冬馬綾乃さん。店自体は年中無休で、冬馬綾乃さんは水曜日が休み。かなり有名な人だそうよ。ネイリストとして。上手でセンスがいいって」

　ゆかりが手を引っ込めて、ネイルしてもらった爪を眺め始めた。

「綺麗な人だと思うけど。あの人、化粧を落としたらだいぶ、顔が変わるんじゃない？　上手く化けてるわ」

「ゆかりもな」

「否定しないけど、私の場合は男に素顔は見せないから」

　確かに。ゆかりの素顔は見たことないな。って、そんな深い関係でも無かったが。

「で？　妻のことを調べて何がしたい？」

「知りたいじゃない。私と別れてからの半月に何があったのか。冬馬綾乃にあって、私に無いものって何か。別れてからたった二週間で結婚したのよ！　気になるじゃない。それに……」

　言いかけて、ゆかりがぱっと口を閉じた。

「なに？」

「これは内緒にしておくわ。良い気がしないだろうし」