ケイヤク結婚
「すでに良い気はしてない。言いかけたなら、言えよ」

「まあ。別に、いっか。今日、新垣侑の婚約者が来たのよ。彼は今、出張中なのに。それでちょっと話したんだけど」

「新垣の過去を話したのか?」

「過去っていうか。まあ、忘れられない女性がいるみたい……とは、言ったわ。それが誰だか私には見当もつかないけど」

「知ってて話をしたんだろ」

 ゆかりがクスっと笑った。

「ええ、まあ。秘書課って便利よね。ちょっと調べれば、わんさかと社内の個人情報がわかっちゃうんだから」

「で、話したのか」

「もちろん。話さないわけないでしょ? あの二人で拗れてくれれば、面白いじゃない。出世争いをしている男同士が女を争い合うなんて」

「悪趣味だな」

「良い気味よ。二人して、私を振った腹いせ」

 ゆかりがにっこりと笑う。俺のデスクから、降りると、カツカツと足音を鳴らしながら、部屋を出て行った。

 二人して? って、ゆかりは新垣とも付き合っていたのか。

 いや、付き合おうとしていたのか。

 どっちでもいいが。新垣が、ゆかりを振るとはな。意外だ。

 二股くらいやってのけてしまいそうなのにな。

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