ケイヤク結婚
―綾乃side―
「すみません。予約もせずに、お伺いして」

 いかにもお嬢様と言わんばかりの清楚なワンピースを着た女性が、お辞儀をする。

「気にしないでください。指名していただけて、嬉しいんですから」

 私は女性の爪をネイルしながら、にっこりと微笑んだ。

「あの……。冬馬さんって彼氏っているんですか?」

 顔を真っ赤にして、客の桜木瑠衣さんが質問してきた。

「彼氏はいませんよ。夫がいますけど」

「え? 結婚しているんですかっ?」

「ええ。つい最近、結婚したんです」

「おめでとうございます」

「ありがとうございます。桜木様は彼氏がいらっしゃるんですか?」

「あ…はい、彼氏って呼べるかどうか、怪しいですけど」

 しゅんと小さくなった桜木さんが、悲しそうな声をあげた。

< 67 / 115 >

この作品をシェア

pagetop