ケイヤク結婚
「実は、３ヶ月前にお見合いをしたんです。私は一目ぼれで……。すごく優しくて、温かくて良い人だと思ってたんですけど」

　桜木さんが、瞼をゆっくりと閉じた。

「違ったみたいです」

「どうしてそう思われるんですか？」

　桜木さん、とても苦しそう。昔の私を見ているみたいだなあ…なんて思ってしまう。

「忘れられない女性がいるみたいなんです。私はただ出世のための道具に過ぎないっていうか……」

　どこでも似たような現状ってあるんだね。

　でも桜木さんは、私とは違う。私はわかってて入籍をした。互いの望みが結婚という形で叶うとわかってたから。

　桜木さんは、相手の人を好きなのに。振りむいてもらえないと悩んでる。

　好きな人に、振り向いてもらえない辛さを私は知っている。

　ただジッと待つしかない苦しさを私も経験してる。だからって、桜木さんに助言できるような立場にいないし、助言できる言葉も私は持ってない。

「辛いですね」

「……はい」

　桜木さんが、小さく頷いた。

　桜木さんは、どんな未来を手にするんだろう。

　相手に利用されているとわかっていて、ジッと我慢するのか。それとも相手を別れて、新たな恋へと踏み出すのか。

　どんな未来になろうとも、桜木さんが幸せになるといいな。

　私みたいになって欲しくない。ズルズルと関係を引き延ばしたあげくに、耐えきれずに逃げ出してしまうような結果にはなって欲しくないな。
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