ケイヤク結婚
「わかりました。再来週の金曜日はあけておきます」

「仕事、大丈夫ですか?」

「はい。大輝さんだってお仕事、お忙しいのに、毎週水曜日に休んでくださっているんですから。私も金曜日は休みをとります」

 冬馬さんが『ごちそうさまでした』と言うと、車から降りていった。

 冬馬さんがアパートに入るのを見届けていたら、携帯が鳴った。

 着信の相手は、ゆかりからだった。

「こんな夜中に何?」

『明日の外回り、私も同行することになったからその連絡』

「ゆかりが? 何で」

『先方たっての希望と言えば納得するかしら』

「は?」

『私だって知らないわよ。先方からの希望なんだから。そういうことだから、頭に入れておいて』

 不機嫌なゆかりが用件だけを述べると、さくさくと電話を切った。

 接待しに行くわけじゃないのに、ゆかりを連れて来いとは。先方は何を考えているのか。

 まあ、先方のご機嫌を損ねて、取引を中断されても困るから、ゆかりは連れて行くが。縁もゆかりもないはずのゆかりが指名されるなんて、不思議だな。

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