ケイヤク結婚
「お兄ちゃん、結婚しないと出世できないの。しかもライバルに先を越されちゃう」

 ガシッと理沙ちゃんが私の腕に掴みかかった。

「だから、綾乃さんにお兄ちゃんの奥さんになってもらいたいの! お願いっ」

 理沙ちゃんが頭をさげた。

 必死な顔が目にやきついた。

 私はまたちらっと大輝さんを見やる。

 大輝さんが、理沙ちゃんの肩に手を置いた。

「理沙、お前から頼むことじゃない。婚姻届を置いて、今日はもう帰れ。あとは冬馬さんと俺で話をするから」

「結婚する?」

 理沙ちゃんの目がきらっと輝いた。

「それはわからない。だが、理沙がどうこう出来る問題じゃないだろ」

「そうだけど」

「わかったなら、帰れ」

 理沙ちゃんが、席を立つと鞄の中から婚姻届の束をテーブルに出して、店を出て行った。

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