ケイヤク結婚
 まだ式の打ち合わせは途中だったが、冬馬さんが切りあげてくれて良かった。

 そう言えば、冬馬さんも友達と食事をするって言っていたな。

 俺はちらっとファミレスの窓ガラスに目をやった。

 窓際に座っている冬馬さんが目に入る。

 冬馬さんもどうやら、俺に気付いていたらしい。こっちを見ているのがわかる。

 俺は無意識のうちに笑みを浮かべると、冬馬さんの横を通り過ぎた。

 俺、笑ってた?

 意識して無表情に戻すと、俺はあいてる手で頬を触る。

 冬馬さんを見て、自然に笑っていた。不思議だ。笑うつもりなんて無かったのに。

「旦那がろくに食事もせずに仕事に行ったっていうのに。妻はお友達と美味しいランチとはね」

「せっかくの休みなんだ。どう過ごそうと妻の勝手だ」

「腹立たしくないの? 打ち合わせを早く切り上げてくれたら、大輝だってちゃんと食べる時間があったのよ」

「ギリギリまで打ち合わせをしていいと言ったのは俺だ。それに、ゆかりには関係ないことだろ」

 そうだ。急きょ入った仕事の時間を、冬馬さんはしきりに気にしてくれていた。

 できるだけ話を進めておこうと言ったのは、俺だ。

 冬馬さんが責められる非はない。
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