ケイヤク結婚
―綾乃side―
「こういうので良かったんですか?」

 私は友人の結婚式にも来たことのあるピンク色のワンピースドレスの裾を持って、大輝さんに質問を投げかけた。

 大輝さんは私の全身を見て、「良いよ」と微笑んでくれた。

 すごく緊張する。

 大輝さんは内輪のパーティだから、気兼ねなく参加して欲しいって話していたけれど。

 私には会社のパーティに参加するという経験はしたことがない。

 ホテルの大広間を借りてのパーティだ。大勢の人が着飾って、立食パーティを楽しんでいた。

 私は、会社のパーティがどういったものなのか。何をするべきなのか。さっぱりわからない。

 緊張でさっきから膝ががくがくしているし、喉もカラカラだ。

 まわりを見ても、知り合いは全くいないし。大輝さんが、会社の話をしていても、何を話しているのかさっぱりわからない。

 大輝さんが、会う人会う人に「妻です」と紹介してくれるたびに、私はどっと汗が飛び出るよ。

「良い人と結婚したね」と思われたいと考えるけれど、どう振る舞うのが『良い妻』なのか、答えがないから。ただただ笑顔で、「主人がお世話になっております」という言い慣れない言葉を言い放つのだけで、精一杯だ。

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