ケイヤク結婚
 俺はぽかんと口を開けて、桜木さんを見張った。

 桜木さんはガバっと身体を起こすと、「変な女だとお思いなのは、重々承知です」と顔を真っ赤にする。

「ここで話すのは何だから……」

 俺は桜木さんを連れて、会場を出た。

 ホテルの庭園はライトアップされて、とても綺麗だとネットのHPにあった。

 会場で彼女の突飛な話を聞くよりも、庭園で夜風に吹かれながら聞いたほうが良い気がする。

 俺と桜木さんは庭園へと足を運んだ。

「桜木さんは、新垣と婚約してるんですよね? その貴方が、どうして?」

「私、いろいろ調べたんです。私を夏木さんの出世の道具に使ってください。だから、冬馬さんと別れてもらえないでしょうか?」

「はい?」

 俺の腕をぎゅっと掴んで、桜木さんが90度以上に腰をまげて頭をさげた。

「夏木さんは、出世のために冬馬さんと結婚をしたんですよね? なら、私でもいいはずです。新垣さんは、冬馬さんじゃないと駄目なんです。だから……駄目でしょうか?」

 桜木さんが涙目で顔をあげた。

「無理です」

「なんでですか? それはもう入籍しちゃったからですか?」

「それもあります」

「お願いします。彼のために……」

 桜木さんがまた深々と頭をさげた。
< 96 / 115 >

この作品をシェア

pagetop