ケイヤク結婚
 出世のために、綾乃さんと結婚を決めたはずなのに。意外なことも起きるものだ。

 確かに、出世だけのためなら、桜木さんの言うとおり。綾乃さんと別れて、桜木さんと結婚をしたほうが、出世コースの道のりは近道になる。

 桜木さんのほうが、上司の娘だし。出世への口添えが増えるから、綾乃さんよりも境遇は断然良いだろう。

 だが、嫌だと思ってしまった。別れたくないと、考えるよりも先に、答えが出ていた。

 利点を考える前に、俺は綾乃さんとの結婚を選んでいた。

 俺は、どうしてしまったのだろう?

 家族以外の愛情なんて、憎しみしか生まないってわかっているのに。

 俺は絶対に、父親のような人生を歩むつもりはないんだ。

 妻を愛し、逃げられたとわかっていても、まだ妻を想い、追い掛けるような男になどならないって決めているんだ。

 最低で恥ずかしい父親と、同じ道は歩まない。

 だから、女は好きにならないと決めているはずなのに。
< 98 / 115 >

この作品をシェア

pagetop