ケイヤク結婚
―綾乃side―
 侑の部屋を出ると、エレベーターホールから駆け付ける二人組が目に入った。

 先頭は桜木様で、そのすぐ後ろには大輝さんがいた。

「綾乃さん、大丈夫ですか」

 私の目前で、足を止めた大輝さんが声をかけてくれる。

 私はにっこりと微笑むと、「平気です」と答えた。

 桜木様の今にも泣きだしてしまいそうな表情に、私の胸が痛くなる。

 侑や私のせいで、この子はすごく苦しくて切ない想いをしているんだ。

 私が大学生のときに味わった苦しみを経験して欲しくないのに。

 私はスッと手が伸びると、ぎゅうっと桜木様を抱きしめていた。

「ごめんなさい。こんな悲しい顔にさせてしまって。私と侑は何でもないの」

「あの」と、私の腕の中で、桜木様の悲痛な声があがった。

「さっき、夏木さんにもお願いしたんですが」

「桜木さん。その話は断ったでしょ」

 大輝さんが、低い声を出す。

 桜木様が私から離れると、大輝さんに顔を向けた。
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