君のための嘘
彼には「大丈夫です」と言ったものの、心の中では使い物にならなく、直すよりも買った方が良いのかもしれないと思っていた。


10万円しかない手持ちのお金では、相当痛い出費になる。


とにかくタクシーに乗って、近い駅で降ろしてもらおう。


スーツケース……。


美形の彼から視線を外し、スーツケースを見るとすぐ近くで倒れていた。


夏帆の視線に気づいた彼はスーツケースを起こしてくれる。


「ありがとうございます」


スーツケースをもらった所で、パスポートや財布などが入った肩から掛けていたバッグがないことに気づいた。


夏帆の顔から色味が消え、慌ててメガネを押さえながらキョロキョロと地面を探す。


「どうかしたんですか?」


夏帆の慌てた様子を見て、彼は聞いてくる。


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