君のための嘘
「ダーリン、寒いだろう?ハワイの気候に慣れてしまってこっちが寒いことに気づかなかったね」


そんな事を言いながら、彼はトレンチコートを脱いで、夏帆に羽織らせる。


驚いたのは夏帆だ。


ポカンとしてしまい、言葉が出ない。


トレンチコートがすっぽりと夏帆を包んだ時、男たちが通り過ぎて行った。


まさか男性と一緒にいるとは思ってもみないのだろう。男たちは足早に去って行く。


それを見て、夏帆はホッと肩を撫で下ろした。


「行きましょう」


「えっ?」


「ここから離れた方が良いと思いますが?」


その通りだった。ここに居れば男たちに見つかるかもしれない。


彼は夏帆のスーツケースを手にすると、待っていたタクシーのトランクに入れた。


そして夏帆は彼に促され、タクシーの後部座席に乗り込んだのだった。


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