君のための嘘
外国で暮らしていて、美形の外国人も見ているが、この人は別格だった。


同じ人間?と疑ってしまうほど整いすぎていた。


そんな彼の横に座っているとだんだんと、自分が惨めな気分になってきた。無一文、身元を保証するパスポートもない。


「どうしたんですか?」


黙っている夏帆にラルフは問いかけた。


光り輝く様な彼を前にしたら、自分がぼろぼろの布きれになったような気持ちになり、急に目頭が熱くなった。


泣いちゃダメ……。


呼吸を浅く繰り返し、堪える。


「君の名前は?」


夏帆が黙り込んでいるのを見て彼は聞いた。


「……私は……岡本 夏帆です」


それだけ言うのが精いっぱいだった。


「家まで送ります 住所を教えてください」


「私……ロスに住んでいるんで……あ、あのまっすぐ警察に……」


やっぱり、霧生家に行くしかないのかもと思い始めていた。


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