君のための嘘
あの会話は私には関係ないものなんだ。


私がいることに驚いたのも、誰もいないと思っていたからに違いない。


何か腑に落ちないけれど、夏帆はそう結論付けた。


******


それから1週間ほど経った。


夏帆がアルバイトをしていることを、ラルフはまだ気づいていない。


夕食を食べている時、ラルフが夏帆の手をじっと見て口を開いた。


「夏帆ちゃん、その絆創膏はどうしたの?」


夏帆の左手の甲に大きな絆創膏が貼られていた。


それは品出しの最中に、カッターで切ったものだった。


段ボールを切っている時に誤って左手をカッターの刃がかすめたのだ。


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