君のための嘘
「どれが欲しい? どんなに大きい物でも買ってあげるよ」


言葉が続けられない夏帆にラルフは聞いた。


タンスのような大きな引き出しも売り物だった。


「ううん」


「夏帆ちゃん、僕は君の夫だよ? 妻が欲しがるものを買うのは夫の役目だ」


「訳があって……自分で買いたいの。ありがとう。ラルフ……」


夏帆は静かに言った。


ラルフのハンカチで涙を拭う夏帆を見て、幼い頃どんなに心細かったのだろうと察した。


夏帆は幼い頃の話をラルフにしていないが、彼は夏帆の生い立ちを知っていた。


辛い生活だっただろう……。


岡本夫妻の養女になれたのがせめてもの救いだ。


夏帆は手のひらにのるくらいの寄木細工の箱を買った。


ラルフも同じ物を手にしてレジに向かう。


どういうわけか、夏帆と同じものが欲しくなったのだ。


「本当に買ってあげたかったけれど、自分で買っておそろいにすることにするよ」


ラルフはにっこり笑って夏帆に言った。


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