君のための嘘
寝室から露天風呂を見ると、幸いなことにお湯は濁っている。


万が一、ラルフが戻って来ても見えることはないと、夏帆は服を脱ぎ始めた。







電話を切ったラルフはそれを床に投げつけそうになった。


『大事なパーティーに欠席するとは、後継者の自覚がありませんね。今日はお見合いの席でもあったのですよ?』


いつもはラルフに甘い祖母のきつい電話。


もちろん、ラルフは祖母がかなりきつい性格だという事はわかっている。


しかし、唯一の孫であるラルフに接する時はいつも優しかった。


祖父の病気がかなり進行しており、息子夫婦を15年前に亡くした祖母はラルフに期待をかけていた。


80歳を過ぎた祖父、前立腺がんの進行は遅いが長くはないだろうと宣告されている。


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