君のための嘘
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「ううーっ! 気持ちいい~っ!」


素肌にバスタオルを巻いただけで寝室を出た時は、凍え死ぬかと思った。


掛け湯をしてから湯船の中に入ると、お湯がピリピリと冷たい肌を刺激した。


しだいにじわじわと温かさが浸透してきて、夏帆は「ふう~」とため息を吐いて出た言葉だった。


肩を出すにはまだ寒くて、夏帆は首まで湯船に浸かっていた。


静かな空間を夏帆は味わっていた。


「温泉がこんなに気持ち良かったなんて思わなかったな」


頭の片隅でラルフはどうしたのだろうと考える。


緊急だったのかな……。


ラルフが戻って来る前に露天風呂から出なきゃ……と思うのだが、気持ち良くて浸かっていたい気持ちが強い。


どうせラルフは私に興味はない……私のハダカを見ても抱こうなんて気は起こらないはず。


そんな事を思うと、夏帆は半ばやけっぱちで湯船に浸かり、ライトアップされたプライベートテラスの雪景色を眺めた。


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