君のための嘘
意識を飛ばしてしまいそうなほど具合が悪かったが、ラルフの話を今聞かなくてはならない。


夏帆は両手を脚の上でギュッと組み握った。


ラルフは躊躇していた。


こんなに具合の悪そうな彼女に爆弾発言を落としたくない。


朦朧とした表情の彼女にこの話が理解できるか……。


「……お願い……ラルフ……ロスに帰すって、なんで?」


目には涙が浮かんでいる。


瞬きをしたらその涙はぽろぽろと頬を伝わるだろう。



ラルフがどうやって夏帆を傷つけずに話そうと考えていると、侑弥がマグカップを持って戻って来た。


「ラルフ、話してやれよ。お前が霧生 貴仁(たかひと)だという事を」


近づいてくる侑弥のはっきりした声が夏帆の耳に飛び込んできた。


「……ラルフが……霧生 貴仁……?」


夏帆は茫然と侑弥の言葉を繰り返した。


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