君のための嘘
掴んだ夏帆の腕は小刻みに震えていた。


「夏帆さん、熱いから気を付けて」


侑弥は夏帆の両手にココアの入ったカップを持たせた。


手に持たせても夏帆は口に運ぼうとしなかった。


「本当にラルフは霧生貴仁なの? 最初から……仕組んだの……?」


お願い、違うと言って……。


違うと言って欲しいが、あの状況で出会った事から無理があるだろう。


「そうだよ。僕は君を迎えに行ったんだ。僕の花嫁として」


「……早坂 ラルフって、偽名なの?」


「ラルフはミドルネームだ。早坂の姓は旧姓なんだ」


旧姓?


夏帆はマグカップを手に持っているのも苦痛で、ベッドサイドのテーブルに置いた。


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