君のための嘘
旧姓の意味が分からなかったが、それよりももっと知りたい事がある。


夏帆は眩暈を堪えて、口を開いた。


「迎えに来た人たちはラルフの事を知らないみたいだったわ!」


「それは計画だよ。突然の政略結婚だったろう? 万が一を考えたんだ。普通なら逃げたいと思うだろう? 考えた通り、君は霧生貴仁から逃げようとしていた。だからよそ見をしている君に近づき、ぶつかったんだ。メガネが壊れたのは僕にとってラッキーだった。バッグも隠すことが出来たし」


「やめて―――――っ!」


夏帆は両手を耳に当てて叫んでいた。


「聞きたいんだろう?」


ラルフは夏帆の両手を耳から剥がすように離した。


「無一文になった君は僕の所に来るしかなかったけど、出会ったばかりの知らない男の部屋に泊まるなんて君は世間知らずで無防備すぎるね。っ! 夏帆ちゃんっ!?」


夏帆はもうこれ以上、意識を保っていられなかった。


嘘っ、出会いから今までがすべて計画された物だったなんて……。


夏帆の身体がぐらっと前のめりになった。


ラルフは意識を失った夏帆の身体を支えるとベッドに横たえた。


< 304 / 521 >

この作品をシェア

pagetop