君のための嘘
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1時間ほど経つと、夏帆は部屋から出た。


手にはバッグとスーツケース。


買ってもらった物はすべて置いて行きたかったが、真冬の寒さには負ける。


買ってもらったコートを羽織った夏帆だ。


もうラルフの世話になりたくない。


ロスに帰る気は起こらない。


今は何もかもが嫌になり、一刻も早くここから出たかった。





ロビーで顔見知りになったコンシェルジュが夏帆に目を止めた。


「こんにちは。どこかへご旅行ですか?」


スーツケースを持っているので、そう思うのだろう。


「はい。ロスへ」


夏帆は腫れた目を見られたくなくて、うつむきがちに答えた。


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