君のための嘘
気心が知れた田中と話しながらも、頭は夏帆を考えている。


ちゃんと食べただろうか……。


体調は戻ったのだろうか……。


「――ちゃま? 貴仁ぼっちゃま?」


「え? ああ。すまない」


玄関の前でラルフはいつの間にか立ち止まっていた。


「飯野物産の飯野会長とお孫様がお見えになっています」


「……そんな事だろうと思っていたよ。先に知らせてくれてありがとう」


ラルフはため息を吐くと6畳ほどの玄関に入った。


そこへ田中の妻の久子が現れた。


久子はここでメイド頭のような存在だ。


「お久しぶりです。貴仁ぼっちゃま」


廊下に正座をして三つ指をつき、挨拶をする品の良い女性だ。


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