君のための嘘
「起きましたか。たいして強い薬ではありませんから、目を覚ますのも早かったわね」


夏帆はその声に驚き、ビクッと身体が震わせた。


「貴方は……!?」


薬を嗅がされたせいか、夏帆の声は掠れていた。


着物を着た女性がソファからスッと立ち上がり夏帆に近づいてくる。


みるからに品の良さそうな年老いた女性だ。


「わたくしの事は何も知らないようね? 畑中!」


ドアの向こうから夏帆に声をかけた男性が静かに入って来た。


「身体を起こしてあげなさい」


畑中と呼ばれた男は夏帆の肩を両手で掴むと上半身をグイッと持ち上げた。


夏帆を起こした畑中は部屋の隅に再び戻った。


夏帆はベッドから足を降ろす形で、厳しい表情の老女を見る。


そうだ、あの男は霧生の大奥様が会いたいと言ったんだ。


< 337 / 521 >

この作品をシェア

pagetop