君のための嘘
「……ラルフから引き離す為に拉致するなんて法に反していると思いませんか?」


微かな吐き気は、強い吐き気に変わっている。


点滴のおかげで体力が戻ったと思ったのは間違いだったらしい。


「ラルフではありません! 貴仁さんと呼びなさい! それに、わたくしに口答えなど許しません!」


「事情は分かりませんが、ラルフと私は愛し合って結婚したんです」


そう言うのは胸が痛んだが、ラルフの味方になると決めたからにはそう言うしかなかった。


間違ってもラルフが相続の為に結婚したと悟られてはいけない。


「あの荷物は何なのですか?」


部屋の隅に置かれているスーツケースを指さされ、今までスーツケースを忘れていた事に気づいた。


「あれは……実家の母の容態が悪くなり行くところだったんです」



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