君のための嘘
「では、帰って2度と戻ってはいけません。良い縁談があるのよ。貴仁さんも乗り気なの」


「……それは約束できません」


ラルフが縁談に乗り気と聞いて悲しみに襲われ、やっと言葉にすることが出来た。


「なんですって? あの子の子を孕みましたか? それとも行きずりの男の子供をあの子に押し付ける魂胆なのですか?」


行きずりの男と寝る、そんな女に見られていたと知って夏帆はショックを受けた。


ラルフが縁談に乗り気だと言う話も困惑しながらもそうなのかもしれないと思い目頭が熱くなる。


「私は……ラルフの言う事以外信じません」


泣かない様に下唇を噛みしめる。


「わかりました。では貴仁を呼びましょう。本心を聞きますから。貴方は黙って隣の部屋にいてお聞きなさい。貴仁の本心が貴方を愛していないのなら潔く去るのですよ」


「……わかりました」


ラルフがなんと言うのか怖いけれど、彼から離れた身だ。


どんな結論でも受け入れられる。


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